製紙工場のIoT化推進に向けワン・プラットフォームWIS&WMSシステムを提案

プロシメックス社社長兼CEO、プロシメックス・ジャパン㈱代表取締役

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製紙工場のIoT化推進に向けワン・プラットフォームWIS&WMSシステムを提案

プロシメックス社社長兼CEO、プロシメックス・ジャパン㈱代表取締役

ミカ・ヴァルコネン 氏

-最初にプロシメックス社の企業概要についてご紹介ください。

ヴァルコネン プロシメックス社はフィンランドに本拠を置く画像処理関連のシステムを提供する企業で、それ以前はヒルデコ社で1993年にウェブモニタリングシステムの開発に取り組み、95年には完全デジタル化を果たして旧メジャレックス社(現ハネウェル社)と提携し国際市場での事業展開を進めました。2000年それまでの経験をもとにプロシメックスを設立、従来個別のシステムとして使われていた紙の欠陥検査システム(WIS:Web Inspection System)とウェブモニタリングシステム(WMS:Web Monitoring System)を1つに統合し、それまでなかった“ワン・プラットフォーム(One Platform)”のシステムとして製紙会社へ提供することを中心に取り組んできました。

当社がスタートし18年ほど経過しただけですが、事業規模は年々拡大を続け、フィンランド国内の市場開拓を皮切りに欧州全体へと事業エリアを広げ、現在は欧州および中国においても同分野でトップシェアの実績を誇っています。さらに国際展開を強化すべく2016年に米国で「Procemex Inc.」を設立。現在、全体で従業員は約80人となり、専業メーカーとしてWISとWMSの売上は世界トップで製紙向けに年間2,000万ユーロ(約26.5億円)以上を販売しています。そうした実績を踏まえ、紙・板紙生産量が世界3位の規模である日本で本格的な事業展開を進めるべく今年4月に「プロシメックス・ジャパン㈱」を設立したという経緯になります。

大きな効果を生む欠陥検出と監視の連動と統合

-事業拡大を支えているキーテクノロジーは何でしょう。

ヴァルコネン 当社が提供するWISの最大の特徴は、従来のラインセンサ方式によるものではなく、エリアセンサによるイメージの取得・解析を行う方式を取っていることです。当社は当初よりエリアセンサ方式でシステム開発の取り組んできたわけですが、それを決定づけた大きな要因の1つに、会社設立の当時、デジタルカメラやスマートフォン、携帯電話などが急速に普及しはじめ、世界的にも同分野での開発投資が活発化していたことが上げられます。つまり、今後CCDカメラによるラインセンサ方式よりもエリアセンサの技術が著しく進展し、WISにおいても大きな役割を果たすことになると判断しました。もう1つの要因は、迅速な品質改善や更なる生産性向上を図るためには抄紙工程で必須アイテムとなっているWISとWMSが連携した機能を果たすような統合化が強く求められてくると予想され、それに対応できるのはエリアセンサしかないということでした。

これら2つの要因によりエリアセンサを使った欠陥検査のシステムを構築するとの設計思想に基づいて技術開発に取り組んできたわけで、製紙工場の欠陥検査は今では世界的にエリアセンサ方式が主流となっています。地域別に見ると中国での普及が目覚ましく、10年ほど以前からエリアセンサ方式が主体となって当社がシェアNo.1を保持、米国もかつてはラインセンサが多く使われていましたが、ここ1、2年急速にエリアセンサへの代替が進んで全体の50%程度を占めるようになっています。欧州はかつてラインセンサのWISが導入されていましたが、近年はエリアセンサが80~90%を占めるようになり、そこでも当社製品がトップシェアを確保しています。

今回、そうした実績をもとに日本での市場開拓を本格化させるわけですが、日本の製紙工場ではまだラインセンサのWISが一般的に使われており、エリアセンサに対する認知度は高くないというのが実情です。しかし、WISの将来性や拡張性などを考えると、日本でもエリアセンサ方式がニーズを高めていくでしょうから、当社製品の提案は大きな意味をもってきます。

-それだけ日本市場は未開拓であり、潜在需要が大きい。

ヴァルコネン 一方でウェブモニタリングの重要性が十分に認知されているとは言いがたく、WISとWMSを連動させ1つのプラットフォームとして統合された当社のシステムを導入していたくことで、製紙工場の欠陥検査や品質対策、さらにはプロセス改善や生産性向上などに大きな成果が得られるようになります。そこが当社のもっとも強調したい導入メリットであり、事業展開における第1の狙いともなっています。

このワン・プラットフォームとしている点が従来にはない画期的なことであり、しかもWISとWMSが同じスマートカメラ、同じ一つのシステム上で稼働するように設計されています。日本ではまだ導入されていない新しい技術ですが、先ほど述べたように、当社は欧州やアジアなどですでに実績を積んできており、世界で広く認められ主流となった技術なので、これを是非日本でも活用していただきたいと考えています。

ストローブライト技術を用い最大20万分の1秒の鮮明画像も

-スマートカメラ以外で重要なキーテクノロジーになっているものは。

ヴァルコネン 当社システムのもう1つの大きな技術的特徴となっているのが、ストローブライト技術を用いた高輝度LED照明です。これはストロボ発光のライトで、電源投入の立ち上がりで高輝度を実現し、さらに少ない消費電力でも光量を大きくできます。そのうえオン/オフを繰り返し点滅させるので常時点灯するライトのような温度上昇もありません。周知のようにラインセンサではライトを常灯させておく必要がありますが、それに比べるとより明るい光量・より省電力で温度上昇の心配もないため、ウェブからライトをある程度離せるようになり、ウェブインスペクションの世界を大きく変えることになりました。ウェブモニタリングでもこの強力な光量のライトが武器であり、高速シャッタースピードで撮像でき高速走行のウェブでも静止画像のような鮮明な画像の撮影を可能にしました。

-確かにカメラの台数が増えるとライトの数が増え、電気消費量も嵩んでしまします。

ヴァルコネン ストロービング照明は、通常のライトを使った場合に比べ消費電力を1/10程度に抑えることができます。欧州やアジアでは200台以上のカメラが使われる工場がありますが、ここでは年間数百万円単位の電気代の削減が可能となります。当社のウェブモニタリングの場合、高速高分解能カメラと高輝度ストロービング照明を組み合わせて使います。カメラのシャッタースピードも速くでき最速で2 万分の1 秒を可能としているため、言わば静止画状態で紙を高解像度で撮像して、高精度な解析の手助けができるようになります。シャッタースピードが遅いと、抄速1,200m/minのマシンの場合には1秒にウェブが20m移動することになり、500分の1秒のシャッタースピードで撮像しても40mmウェブが動いてしまうためピンボケ状態の画像となります。いくらフレームレートが高くても画像が不鮮明となり、欠陥やトラブルがあっても正確な解析ができなくなります。
当社ではこうした主要機器を他社からの購入でなく自社製としており、当初よりカメラについてはマトリックスセンサ搭載のスマートカメラ、ライトについては高速シャッターを可能とする高輝度ストロービング照明を重要と認識し、ユーザーの要望などを取り込みながら製品を開発してききました。時代変化や市場動向、技術革新などにより生じる新たな要望へ対応したアップブレードやカメラ追加等のご要望にも素早く対応できる、といった面でも優位性をもっています。

熟練者の減少で迫られるIoT活用の自動化システム

-IoT推進との関連についてはいかがでしょう。

ヴァルコネン われわれが提供するシステムのベースとなっているのはインテリジェント機能内蔵のスマートカメラであり、それ自体がすでにIoT対応の機器と言ってよりと考えています。これをネットワークに接続し、操業にともなって発生するサウンド(音)やプロセスデータなどをインプットして解析するといったこともワン・プラットフォームで実現可能であり、統合拡張の余力をもったシステムの提供でもあるわけです。つまり、ビジョン(画像)の取得・解析を前面に押し出して紹介していますが、それら直接的な機能以外にも各種データも収集・解析するインターフェイスとして使えるので、単に画像処理システムとしの利用にとどまらずIoT化推進による技術革新といった観点からも導入効果が期待できるということです。

-今後、人材不足対策の面でも有効となりそうですね。

ヴァルコネン WMSに関連して言えば日本でそれほど普及しておらず、マシン新設の際に導入されるケースもありますが、設備投資が抑制されているなかで稼働中の多くのマシンがこれまでオペレータが使いこなしてきた既設マシンとなっています。紙切れなどのトラブルが発生すると、その要因を経験的に把握できる熟練のオペレータがいれば何もWMSに頼らなくてよく、問題なく操業ができるといった側面があったと思います。しかし、最近は世代交代が進んで熟練オペレータが少なくなり、トラブル対策にWMS導入の必要性が高まってきているのも事実です。世界の流れと違ったアプローチになりますが、日本でも今後とくにウエットエンドなどでのWMSがニーズを強めていくことになると予想しています。

-これまでオペレータのスキルに任せていたが、今後は画像処理技術を強化して自動化を進めざるを得なくなる。

ヴァルコネン それには当社提供のワン・プラットフォームを導入すれば自動化はもちろんIoT化推進による技術革新が行いやすくなる。日本でも当社のWISに対する関心は高まっていくでしょうが、それ以上に大きな効果をもたらすのはWMSだと見ています。技術的な違いはありますが日本でも大半のマシンにWISが導入されているため、その有効性は十分に認識されています。しかし、当社のワン・プラットフォームによりWISと連動したWMSの機能が一段と高められおり、それによる統合的なプロセス改善の効果に新鮮な驚きを感じてもらえるのではないかと考えられます。

これまで製紙会社は印刷会社など顧客のクレームに対応することを重視するあまり、抄紙工程下流側での欠陥検査を重点的に行ってきましたが、その結果、欠陥発生の原因を解明しマシン操業の改善に繋げていくといったところまで手が回らなかった一面があったのも確かでしょう。それを解消していくにはウェブの挙動を可視化(ビジュアライズ)し、原因を解明して対策を講じやすくすることが求められてきます。

-確かにそうした点では世界とは違ったアプローチになる。

ヴァルコネン 例えば、急速に製紙工場の近代化を進めた中国では日本と異なり、熟練オペレータ自体が少なかったためマシン新設の際に最新の自動化システムも採用する恰好となりました。当社が早い段階に中国市場へ進出した事業展開は、そうした点で状況判断に間違いはなく当を得ていたと言えるかもしれません。

ウエットパートの悪環境でも導入効果もたらすエリアセンサ

-紙・板紙の品種によって日本での事業展開は異なってきますか。

ヴァルコネン 日本でも印刷用紙などの需要が減少し生産集約化で一部マシンが停機となっていますが、他方では段ボール原紙や家庭紙などが堅調な動きを示しています。そうした面で品種によるマーケッティングの違いが生じてくると思われますが、技術的ポイントは別のところにあります。既存の欠陥検査は多くの場合、品種を問わず出荷段階の製品となるリールで行われていますが、当社が狙っているのは先ほど触れたように紙層が形成されるウエットパートでの検査であり、紙となったばかりの上流側において欠陥が成長していかないよう原因を究明し対策を講じやすくすることにあります。ウエットパートでは撮像環境が悪いため従来のWISでは欠陥を捕捉しにくかったわけですが、当社製品ではピンホールレンズを使って水滴や薬液が飛散する場所でも鮮明に撮像できるカメラを開発しています。したがって、品質保証だけを目的とせず、これまで難しかった高品質レベルを実現できるような操業改善を図る際にも有効性を発揮します。

-従来の欠陥検査システムという概念には収まらない。

ヴァルコネン 難しいとされてきたウエットパートや悪環境での検査・モニタリングができるようになります。例えばライトにしても防水性能が高いIP68仕様にしています。そもそも欠陥検査とモニタリングを統合させている点で従来の欠陥検査システムとは根本的に異なっているわけで、それにWIS、WMSいずれも抄紙工程の上流側で解析が行えるということで既存システムとそれぞれ一線を画していると言えます。

-最後に、日本での具体的な事業展開については。

ヴァルコネン 日本の製紙会社は品質に対し世界でもっとも厳しい国ですし、レベルの高い技術者がそれを可能としてきたことを理解しています。そうしたなか世代交代により熟練オペレータが減少しているという現実があり、その対応策として当社製品が貢献できると確信しています。欧州や中国、米国などで実証され支持されて着実に実績を積んできた当社の技術が品質に厳しい日本において活かしてもらえるようユーザー個々の操業条件に合わせて提案していきます。

当社システムはすでにトライアルの形により日本で3社目となる製紙工場へ導入されており、そうした経験を通し、具体的な悪環境・劣悪条件の現場でも欠陥検査ができるという大きなメリットを認知してもらえるとの確証を得ています。悪条件下での利用はラインセンサにできないことであり、その優位性を理解しいただきながら、全体のシステムがもたらす導入効果を紹介していきます。つまり、最初のアプローチはウエットパートから行い、その効果を知ってもらう。その結果、既設のラインセンサとの置き換えも出てくるでしょうから、ユーザーの要望に柔軟で細かく対応していくことを第1に置いた事業展開を進めていこうと考えています。

こうした取り組みが大きな成果をもたらすのは確実であり、実際、プロシメックス・ジャパンの事業所開設から現在までの短期間に複数のシステムを受注しました。今後とも当社技術が日本の製紙工場に普及していくものと期待しています。